広島家庭裁判所 昭和41年(家)766号 審判 1966年6月07日
申立人 広島県安芸郡○○町長 浦田久三
事件本人 大井則男(仮名) 外一名
主文
本件申立を却下する。
理由
本件申立の要旨は、事件本人らは昭和四一年四月二〇日事件本人大井則男申立による調停離婚成立し、同月二六日事件本人らは申立人役場に同道して離婚届をなし、同日受理された。しかるに同離婚届に事件本人木戸伸子から広島県安芸郡○○町一七番地に同人の新戸籍編製を申出る旨記載され同人の署名押印があつたので、申立人は同人の新戸籍を同所に編製した。ところがこの取扱は調停離婚の際、新戸籍編製の申出をすることができるのは、届出義務の関係で婚姻の際氏を改めた調停の申立人に限るという戸籍の先例に反し、本件の場合、事件本人木戸伸子については復籍すべき婚姻前の戸籍たる三重県南牟婁郡○○町○○○二、三一八番地木戸伸子戸籍がすでに除かれているため同所に新戸籍を編製すべきであつたので
本籍広島県安芸郡○○町一七番地事件本人大井則男戸籍中妻伸子の身分事項欄記載離婚事項中「安芸郡○○町一七番地」とあるを「三重県南牟婁郡○○町○○○二、三一八番地」と訂正し、三重県南牟婁郡○○町○○○二、三一八番地に事件本人木戸伸子の戸籍を編製し、本籍広島県安芸郡○○町一七番地事件本人木戸伸子戸籍を消除することを許可する旨の審判を求めるというのである。
そこで、案ずるに本件は戸籍管掌者たる○○町長が戸籍法第一一三条の利害関係人として申立をしたものであるが、同条の戸籍訂正を申立うる利害関係人はその誤謬戸籍により身分上、財産上の利害関係を有するものに限られるのであつて、戸籍管掌者たる市町村長は戸籍訂正を申立うる利害関係人ということはできないと解すべきであるから、本件申立は不適法である。
仮りに、本件申立を適法な利害関係人から申立てたとしても申立人提出の一件書類を調査した結果では、上記申立の要旨記載の事実が認められるが、戸籍法第一九条一項但書の申出による新戸籍編製は当該復籍すべき者の意思に基いてなされることを確保すれば足りると解すべきであるから、協議離婚届出の場合に限らず調停離婚届出の場合であつても当該復籍すべき者の意思が確保される手段、たとえば調停の申立人からの離婚届出に際して同届書に相手方が新戸籍編製を希望する旨および新戸籍編製の場所を付記して署名押印する等その意思が明確にされておれば、相手方からの新戸籍編製の申出を適法として取扱うことを相当と考える。本件の場合、相手方たる事件本人木戸伸子は離婚調停申立人たる事件本人大井則男が離婚届出をなす際、同人と共に申立人役場に同道し、同届書に「広島県安芸郡○○町一七番地」に新戸籍を編製することを希望する旨および署名押印しているのであるから本件新戸籍編製の申出は適式になされたものというべきであり、申立人のいう関係戸籍の訂正の必要はないと思料されることを念のために付加する。
よつて主文のとおり審判する。
(家事審判官 竹島義郎)